粉塵爆発について

粉塵爆発のリスクは、実は身近に潜んでいるのです。

ふぅ、今日も仕事終了。
お疲れ様。そういえば今日、集塵機の清掃メンテナンスの日だったと思うけど、滞りなく出来た?


あ…はい、大丈夫ですよ。
(おや、様子がおかしいな?)
ほんとにちゃんと出来た?ちょっと見にいこうか。


(やっべーーー!!!)
やっぱりやってなかったか。


すみません。時間がなくて…
うーん。君はどうして集塵機のメンテナンスが必要だと思う?


えっと…、粉だらけになって、本体とか周辺が汚れて、衛生的じゃないからですか?
確かにそれもそうだね。でも、それ以上に重要でやばい理由がある。


やばい理由?なんですかそれは?
集塵機は掃除しないと…


掃除しないと…?
爆発する。

粉塵爆発による事故は、実際に起こっています
2025年3月、愛知県の自動車部品工場で爆発が起き、従業員1名が亡くなる痛ましい事故がありました。
事故当初から、この爆発は粉塵爆発だろうという見立てで、詳しい事故調査の結果、集塵機に溜まった粉塵を原因とする粉塵爆発であることが分かりました。
この工場では、2023年10月にも爆発事故が起こっています。
集塵機を原因とするものではありませんでしたが、こちらも粉塵爆発でした。
この工場では2023年の事故以降、粉塵爆発対策を徹底しており、3月の事故は集塵機の清掃中に起きた事故でした。
粉塵の発生がある場所では、メンテナンスを徹底していても、粉塵爆発のリスクは多く潜んでいるのです。

そんな、爆発ですか…。
そう。粉塵爆発のリスクは身近に潜んでいる。他人事じゃないし、かなり恐ろしいんだ。


掃除しなきゃいけないと思うんですけど、掃除するのも怖くなってきました…。
確かに、でもそのままにしていたら余計に爆発のリスクが上がってしまう。粉塵爆発の仕組みをしっかり確認して、安全に作業しよう。

今だからこそ、粉塵爆発の仕組みを知ろう
粉塵爆発は、空気中に舞った細かい粉体(粉塵)に火がつく事で起こります。
粉体は、袋や容器の中に密に入っている状態であれば爆発的に燃えることはほぼありません。炎が燃えるには酸素が必要ですが、粉体が密に重なった状態では、炎が燃えるのに酸素が十分な酸素が供給されません。そのため、容器に密に入った小麦粉のような粉体では、発火や爆発はほとんど起こらないのです。
一方で空気中の粉塵は粉体の粒子の周りに無限に酸素を供給する空気がある状態ですので、粉体粒子に火がつき連鎖的に延焼、爆発的に燃える事に繋がるのです。
粉塵爆発が起こるには、以下の3つの条件が揃う必要があります。
1.粉塵の粒子が微粉の状態で、空気中に一定の濃度で浮遊していること。
2.発火源が存在すること
3.空気中の酸素
具体的にどういったことか、一つずつ見ていきましょう。
粉塵の粒子が微粉の状態で、空気中に一定の濃度で浮遊していること
1つ目は粉塵についてです。
粉塵爆発が起こるときの粉塵の状態は、粉塵の「大きさ」と「密度」の2つの尺度があります。
まずは、粉塵の「大きさ」です。
粉塵の大きさは、細かければ細かいほど粉塵爆発は起こりやすいです。これは粒子が細かい方が着火時のエネルギーが小さく、単位面積当たりの表面積が大きくなり、空気との染色面積が大きくなるため、爆発的に反応する可能性が高くなるからです。
粉塵爆発を起こす微粉の大きさの限界は、100~0.1μmと言われています。
次に、粉塵の「密度」です。
粉塵が爆発するためには、空気中の粉塵濃度がある範囲内にある必要があります。
これを「爆発限界」または「燃焼限界」と言い、爆発限界には「爆発下限界」と「爆発上限界」の2つがあります。
粉塵密度が低すぎれば(爆発下限界)、隣り合った粉塵粒子への連鎖的な延焼が起こらず、逆に粉塵密度が高ければ(爆発上限界)、粉塵の冷却効果によって、熱の連鎖的な反応が起こらず燃焼しません。
発火源が存在すること
2つ目は発火源についてです。
粉塵爆発の一般的な発火源は以下のものです。
(1)マッチ・ライター・たばこのような裸火
(2)ベルトコンベア等のベルトのスリップなどによる摩擦熱
(3)機械のメタル・電気機器・ベルトの摩擦などによる加熱発火
(4)モーターのスリップリングやスイッチ・配線などの電気設備損傷によるスパーク火花
(5)粉砕機やロール機等への異物混入による衝撃火花、ストックの詰まりによる発火及びコンベア等の機械局部摩擦による加熱発火
(6)溶接・溶断、はんだ付け等による火花
(7)静電気の放電発火
(8)サイロ内や工場内での自然発火
粉塵が発生する可能性のある作業をする際は、これらの発火源がないように確認しなければなりません。
空気中の酸素
3つ目は空気中の酸素です。
酸素は燃焼の3要素(可燃物・発火源、酸素)にも含まれている通り、ものが燃えるためには必須の要素です。
粉塵爆発においては、粉塵が可燃物となり、そこに発火点と酸素が与えられると粉塵爆発のリスクが高まります。
粉塵爆発が発生する過程
この項の最後に、粉塵爆発が起こる仕組みを説明します。
粉塵爆発は、1.粉塵の浮遊→2.着火源による引火→3.燃焼の連鎖→4.圧力膨張の4ステップで構成されます。
1.粉塵の浮遊
可燃性粉塵が空気中に一定の濃度で浮遊している状態が、爆発条件の1つです。
2.着火源による引火
粉塵が浮遊している状態に、火花・静電気などの着火源が触れると粉塵が引火し、燃焼が始まります。
3.燃焼の連鎖
燃焼が始まった粉塵の熱によって、周辺の粉塵も温度が上昇し、連鎖的に燃焼が広がっていきます。
4.圧力膨張
燃焼によって発生する熱と気体の膨張により、急激な圧力が生じ、これが爆発を引き起こします。

なるほど…粉塵爆発という言葉は聞いたことがありましたが、何が原因になるとか、発生の原理までは詳しく知りませんでした。
原因や原理を理解して、正しく対処すれば粉塵爆発は防ぐことが出来るんだ。


具体的な対処法も理解して、メンテナンスをします!
徹底しよう!粉塵爆発の予防と対策
それでは、粉塵爆発の予防と対策をご紹介いたします。
粉塵爆発の3つの条件の内、現実的に排除が可能なのは、粉塵と発火源です(当たり前ですが、無酸素状態では我々人間が作業できません)。
一般的な予防措置としては、日常の清掃(粉塵の除去)と、設備配置の工夫や設備の管理、喫煙ルールなどの作業員のモラルの徹底(発火源の除去)です。
また、爆発解放口(ベント)や危険予知装置の設置なども有効な手段です。

粉塵の除去と発火源の発生を防ぐことが、予防と対策の基本なんですね。
我々の現場にどのような粉塵と発火源があるか確認し、すべての作業員に徹底周知しないといけないね。


はい、みんなで粉塵爆発をはじめとする危険を排除するために学び、対策し続けないといけませんね。
最後に
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。いかがでしたでしょうか。
粉塵爆発は大きな事故につながりますので、粉塵が発生する現場では何かしらの対策をしていると思います。
しかしながら、作業員の入れ替わりなどによって、対策の意義や、危険発生原理の教育が行き届かなくなっている現場もあるのではないかと思います。
こうした状況の中に、少しの油断があると大事故を引き起こすこととなります。
粉塵爆発をはじめ、事故が起こる危険閾値は現場によって異なります。
この記事をきっかけに、ぜひご自身の現場でも起こりうる事故について、原理原則を学び、現場に合った対策を講じていただくことを切に願っております。
